とある港まつりと缶チューハイ

小籠包

8年ぐらい前に
仕事で大きな失敗をした。

今まで「当たり前」と思っていた
スタッフや取引先もいなくなり

お金や心の余裕が
エンプティーをさして
少し経ったころ

電車で数駅の街で
「港まつり」というイベントがあった

僕自身は外に出歩く
モチベーションはなく

ただ、そんな後ろ向きな自分を
家庭で出すのも嫌で
もっぱら週末も平日も関係なく
事務所にこもることが多かった

今思えば、そうなる前から
奥さんは見ていたんだろう

「今週末に港まつりがあるから
昼間に少し気分転換に行こう」と
笑顔で誘ってくれた

でも、祭りに行けば
屋台で食べたいしお酒も呑みたい
行くにもお金がかかるし
誰かに会うのも億劫だった

そんな事を思っていたら
奥さんがリビングで
アレコレと用意をしながら
僕に説明をしだした。

これはね、ビール5本も入る
保冷バックなんだよ
こないだスーパーでもらったの。

これにチューハイとか入れて
お腹が空けば何か食べよう

子供の時の遠足のように
楽しそうに準備を説明する奥さんに
僕は何も言えず、いいねぇ!と同調した。

当日はスーパーの特売日に買った
チューハイを保冷バックに入れ
僕が持ち、港まつりに二人出かけてみた。

駅を降りるやいなや
ものすごい人だかりで
誰も彼も楽しそうに見えた。

とりあえず奥さんとぐるっと
屋台やイベントを見ながら
持ってきたチューハイを呑みながら
その雑踏を楽しんでみた

途中、1個40円の小籠包が売ってたので
二人で4つ買って
近くの座れる場所に歩いて行った。

熱々で見るからに美味しそうな
小籠包にニコニコしながら
「ここで食べようよ」と

奥さんが陣取った芝生の上で
僕たちは二人で160円のランチをはじめた。

周りは焼そばや焼き鳥や
その他色々なものを食べ歩く人が溢れ
僕たちは手のひらに全部乗るぐらいの
大きさの小籠包を二人の間に広げ
もう少しぬるくなってきた
チューハイで乾杯した。

他愛もない話だったんだろう
何を話したかは覚えてないけど
カンパーイと二人でチューハイを呑み
一口、熱い小籠包を口にした瞬間

耳の後ろがぐっと痛くなり
胸が締め付けられた。

笑顔で美味しい!美味しい!と
言っている奥さんに

僕は思わず「ごめんね、頑張るからね」と
泣きながら小籠包を食べていると
奥さんも泣き出し
「うん、一緒に頑張ろうね、パパは頑張ってるよ」と
言い二人でワンワンと泣きながら
チューハイで小籠包を流し込んだ

あの晴れたとある日の港まつりは
それから1度も行ってないけど
いつか、いつか、キチンと
肩から荷を降ろして

もう一度
今度は僕から奥さんに
「行こう」と誘ってあげたいと思う。

その時は、あの時の
小籠包も食べようと思う。

きっと、また性懲りもなく
泣いちゃうんだろうけど。

小籠包

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